那由多の果て

伝埜 潤の遺産。小説になり損なったフラグメントと、日々の連れ連れ。

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白肋の記憶 アスカロン番外

何か、あんまり知らないうちに書いていた第五学年の過去エピソード。いまいち続きが思い出せないので、このままアスカロン番外ということにして投下してみる。何という無理やり感。




『弦』寮第五学年のユハ・パラスケとバレンシア・グラーチアは、入学当初から仲がよかった訳ではない。今でこそ、白い髪を揺らしてふわふわ歩くユハの隣には、常にバレンシアの豊かな黒髪があり、その仲は裂き難く、また近づき難い。ユハとバレンシアの世界は穏やかで完結していた。
だが、それはあくまで今でこそ、成り立つものだ。四年生になるまでのバレンシアは、世間を斜めに眺めた暗く内向的な性格だった。ユハは、張り付いた笑顔で常に笑っている子どもだった。

額の汗を拭い、試合の相手と挨拶を交わすと、『刃』寮のミハイル・グレンドルフはふらりと歩きだした。同輩の健闘をその目で確認したいと思ったのだ。
四年生になると模擬戦闘も増える。正に今行われているのはそれだった。トーナメント方式の勝ち抜き戦。寮も班も関係ない、個と個のぶつかり合いだ。因みに、ミハイルは現在三戦三勝だが、次を棄権した。先日傷めた右足を庇った判断である。
ミハイルの炯眼が、一人の少年を捉える。先の試合で敗れたらしく、不機嫌を隠そうともしないその様に、ミハイルはそっと声をかけた。
「アルケイドか?」
「野暮を聞くなよ。…アルケイドじゃない」
ぶすくれてしゃがみ込む焦香色の髪の少年は、『刃』寮のエレジア・ヴァリアツィオーニ。足元には長い鎖がとぐろを巻き、その先端は長柄に繋がっている。反対側には、凶悪な棘に覆われた鉄球が転がっていた。
「驚いたな…。アルケイド以外がお前に勝ったのか」
エレジアが緑の目を眇める。ミハイルの呟きは至極真っ当だった。
エレジア・ヴァリアツィオーニは、現四年生の中で最重量級の前衛である。実技成績は次点、生半可では負けない身体能力と攻撃力の持ち主なのだ。扱う得物はモーニングスター、それだけで相手を威圧し、打ち砕く。そのエレジアが負けた。ならばその相手は実技成績トップ、『刃』寮のアルケイド・フェリスしか考えられなかった。だがアルケイドではないらしい。
「ならば誰だ?ミカあたりに油断したか?」
ミカ・バーテライネンは『杖』寮である。人間磁石という特性から、前衛もこなす。普段は棒状の金属を投鎗として使っているが、その気になれば蛇の如く縦横に走らせることも可能だ。「ミカなら、最初にアルケイドに当たって負けていた」
エレジアは首を横に振り、溜息を吐いた。
「『弦』寮の、バレンシア・グラーチア。得物は大鎌だ」
「…グラーチア?」
ミハイルは眉を寄せた。少し前まで、バレンシアは最後衛にいたはずだった。回癒術の使い手で、典型的な『弦』寮生のイメージがある。
「得物の大鎌は、これと同じくらいの長柄武器だ。それに湾曲した両刃が付いている。いわゆるレコンキスタだな」
面白くなさそうにエレジアが説明する。要するに、似通った大物武器を使う相手に負けたことが許せないのだ、とミハイルは当たりをつけた。
「勝てばアルケイドが相手だったのに…!今日は私が勝つつもりだったのに!」
エレジアの呻きに、ミハイルは眉を上げる。アルケイド。学年最強が当たるのか、エレジアを負かした相手に。
「それは…楽しみだな」
「あーあーそうだな、せいぜいアルケイドに頑張ってもらうさ。あいつに土を付けるのは私だ」
アルケイドは、学年では全戦無敗である。
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