那由多の果て

伝埜 潤の遺産。小説になり損なったフラグメントと、日々の連れ連れ。

<< December 2017 | 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31 >>
<< 一応。 | main | ウルスラ。 >>

白肋の記憶8 アスカロン番外

久々にアスカロン。ミハイルとリチャードのための。



鈍い地鳴りが腹に響いた。
「…っ!?」
最初に気づいたのはリチャードだった。翠眼を見開き辺りを見回すも、剣呑な状況は変わらない。リチャードの腕の中ではミカが昏倒し、背後では同級生が右往左往している。エレジアと寄り添うように立ったバレンシアが、射るような視線でこちらを見る。
「全員、動けない奴を抱えて走れ」
リチャードの地を這うような声に、ウィンスレイが目を剥いた。
「はぁ!?」
「全員逃げるぞ。何か来る。グラーチア動けるか。エレジアを。ミーヒャはアルケイドを頼む。ウィンスレイ、動ける奴らを連れて先に行け。先導を頼む。学園までの道を拓け」
言いながら、己はミカの長身を背に負う。
「リチャード。防ぎきれないかもしれない」
「構わない、いや防ぐな、受ければ君が死ぬ」
ユハが指を組みながら告げ、リチャードがそれを制する。
「り、チャー、ド」
呻く声は背に負われたミカだ。囁くその声を、眉間に皺を刻みながら聞いたリチャードは表情をさらに険しいものに変える。
「今ここで、長寿竜に出てこられたらどうなる、ウィンスレイ」
戸惑うウィンスレイにリチャードは強く畳みかける。
「長寿竜だと!?何を根拠に、」
「ミカが見た。それで十分だろう。聞いたな、ミーヒャ。事情が変わった。アルケイドをパラスケに。頼む。死ぬなよ」
リチャードの硬質な声音に、ミハイルは小さく唇を歪めた。
「鋭意、努力する」
「…冗談で言っている訳じゃないからな。生きて戻れ」
リチャードの指揮官としての能力は、最早疑いようがない。状況判断の的確さ、加えて現時点での最良策を選ぶ判断の速さ、そしてそれを選んだ後の実行に移る非情さ。そのリチャードがミハイルに命じたのは、殿だった。 黒竜が、ミカの眼を信じるならば二体。それも、内一体は長寿竜。必死の殿になる。こちらから仕掛けず、ひたすら冷静に凌ぎ続けられるのは――粘り強く耐えられるのは、ミハイル・グレンドルフしかいない。リチャードはそう判断した。
「わかっている。だが、俺を買い被るなよリチャード」
「すまない。だけど今の状況では、君しか、僕には考えられない」
リチャードの翠眼に灯る悲痛は、最悪を覚悟している証だ。ミハイルは年下の同級生の頭に掌を置き、宥めるように掻き回した。
「退却に専念しろ。お前が導け」
言い置いてミハイルは踵を反した。
アスカロン / comments(0) / trackbacks(0) / 伝埜 潤 /
Comment









Trackback
url: http://thundersonia.jugem.jp/trackback/337