那由多の果て

伝埜 潤の遺産。小説になり損なったフラグメントと、日々の連れ連れ。

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風切り羽根

シリアス展開ばかり書いていると、ついついこういうB級なノリに浮気してしまう。因みに続かない。たぶん。



「ようこそ、裏切り者のツァン」
たっぷりと侮蔑を含んだ笑声が、ネイとソニアを迎えた。長い蒼髪を垂らした司祭服の青年が両腕を広げる。
「何と言うかだな…お仲間はずいぶんとお前を嫌いみたいだな?」
「それは…そうでしょう。僕は裏切り者ですから。それも、一人めのブルーバードだった。変な崇拝をしてくれていたのも原因です」
ソニアは呟き、歩を進める。
「退いてくれ。僕はセレストに用がある」
言い放ったソニアの足元を、軽やかな火花が抉る。青年の手にはFN-P90の機能美。ネイが反射的にベレッタを掲げ、ソニアがそれを制する。
「裏切り者の分際で、あの方に会いたいなど…よくも言えたものだ。君を失ったあの方が、どれほど嘆かれたことか」
憤怒に銃身を震わせる青年に、それでもソニアは言葉を投げかける。
「セレストは僕の恩人だ。僕の世界は、あのとき、彼と出会って始まった。だけど、それでも僕はセレストに突きつけなければならない。僕らは、幸せの蒼い鳥なんかじゃない、今のままでは!」
「黙れ。ツァン、私は君を信じない。セレストはまだ君に夢を見ているようだが、私は違う。あの方の目を覚まさせるために、私は君を撃つ」
乾いた音に、ソニアの頬が裂けた。青年の緑色の瞳が殺意を宿して煌めく。
「どうするつもりだソニア。あいつはちょっと…いろんな意味で手強そうだぞ」
ネイは顔をしかめて傍らに問う。戦闘に持ち込めば、恐らく制圧できないことはない。だがそれはソニアの願うところではない。
躊躇いを打ち払ったのは、明るいテノールだった。
「ずいぶんと偉そうな口を叩くようになったじゃねェか、ベルディテ?」
ここにいないはずの声に、ネイとソニアが揃って振り向いた。アシンメトリの銀髪、眼鏡のレンズ越しに青鈍色の瞳が瞬く。
「何だお前ら、雁首揃えてこっち見やがって」
唇が半月の笑みを描く。かつてはブルーバード最凶と言われた男――ティールが眼鏡のブリッジに指を当てながら、ごく楽しげに言う。
「負け犬は退がれ。君に今さら用はない」
ベルディテ――ティールが呼んだそれが、青年の名前だった。ティールは唇を歪めて笑う。その眼に灯る酷薄に、思わずソニアが声をかけた。
「ティール」
「あン?何だツァン。まだいたのか。セレストに直に話をつけるんなら、この先の廊下の、左手の部屋だぜ?」
親指でくい、と示された扉の前にはベルディテが立っている。
「そいつには俺が話をつけてやる」
だから、行ってこい。ひらりと振られた掌。ソニアが眉を寄せる。
「だけど、ティール、」
「安心しろよ殺さねェから」
「いや、そうじゃなくて…」
ネイはティールの膝を見やった。膝蓋骨を撃ち貫かれた後遺症は大きい。満足に動かない片足で戦闘の意思ある相手に向き合うなど、狂気の沙汰だ。
「まァ、ベルディテは俺やお前と近い時期にブルーバードに来た、言わば初期メンバーだからな。お前がいろいろ言いたいのもわかンだけどよ、今は止めとけ」
小首を傾げ、ティールはソニアを促す。
「それに、お前はともかく――あいつは俺を殺したくて仕方ねェんだ。たぶん」
「な!?どうして!?」
ソニアが切れ長を丸くして声を上げる。瞬間、空を連射音が引き裂いた。
「私を無視してのお喋りとは、状況がわかっていないな!」
ベルディテがFN-P90の引き金を引いたのだ。
「ほらな?今の射線は俺を撃つためのものだろ?」
「あぁ、だけど、」
容易くそれをいなしながら、ソニアも気づいていた。確かにそれは、ティールを目標にしていた。
「あいつは許せないんだろうよ。セレストに心酔してない俺を、前々からよくは思ってなかったし。その上、ツァンを呼び戻しに行って、そのまま裏切ったんだ。セレスト命のあいつが、許せるはずねェだろ。心配すんな、殺さねェし、殺されねェよ」
片目を眇めてティールは笑い、ソニアが唇を噛んだ。
「あ、そうだネイ、」
ティールは不意にネイの方を向いた。青鈍色が真っ直ぐにネイの翠緑を貫く。
「気をつけろ。セレストの傍には、ヒスイがいる」
「ヒスイ…?」
訝るネイにそれ以上を語る気はないとばかりに、ティールは背を向けた。ひらりと振られた掌。もう一方の掌には愛用の蠍。
「ツァンを、頼むぜ。そいつは、あんたが思うより死にたがりだ」
「ティール!」
Vz85をつい、と掲げ、ティールは唇を歪めた。人差し指のない右手が、ベルディテを招く。動かない足を引きずり、それでもその貌は不遜な笑みに彩られていた。
「そういやァ、その武器を選んでやったのも俺だったな。ちっとは腕が立つようになったのかあァん?試してやるから撃ってきな、箱入りの可愛子ちゃん」
完全にベルディテを下に見た発言だが、ネイは戦慄した。ティールが放つのは紛れもなくかつての、兵士の気配。掛け値なしの本気だった。かつてネイが相対し、それだけで戦闘困難にさせられた、本気の殺気だった。
「舐めてくれたなティール。後悔しろ負け犬がぁぁあ!」
なぜ、お前はその殺気を浴びて、ティールに叫べる?ネイは瞠目する。その傍らで、ソニアが遂に動いた。
「――ティール、」
呼びかけに、青鈍がちらりと視線を投げる。
「無事で」
「あァ?だァれに向かってもの言ってんだ、お前みたいな甘ちゃんと一緒にすんじゃねェよ」
スコーピオンが、毒針をもたげる。
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